安価なITXケース「RAIJINTEK METIS」にGTX1080TIを収めてコンパクトVRPCにする

低価格ながら特徴的なデザインと豊富なカラーバリエーションで人気のMini-ITX PCケース「RAIJINTEK METIS」。好みの色を選択できるため、ルームスケールVRが利用しやすいリビングにも設置し易い。しかし、コンパクトゆえパーツの物理的相性と熱対処はシビアになってくる。

今回はコンパクトケース「Metis」に無理やりGTX1080TIを収めて、VRPCとして運用してみた。本来の対応カード長を超えた組み込みなので推奨は出来ないが、アーカイブとして残しておく。

タワー型PCにはないコンパクト自作PCの楽しみ

ゲーミングやVRを目的とした自作PCはミドルタワーかミニタワー型が一般的だ。サイズに余裕があれば、パーツ相性も気にせず、余裕のある熱処理設計やオプションを選択できる。

しかし自作PCの半分程度は組む過程にもある。コンパクトな自作PCで四苦八苦しながらも、自分の目的にあったPCに仕上がった達成感は、定番のケースでは味わえない醍醐味だ。

筆者も巨大なフルタワーPCや定番のミドルタワーPCも所有しているが、触ってて楽しいのはコンパクトで安価なこのITXケースだ。

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低価格で気にせず加工ができるITXケース「Metis」

RAIJINTEK METISシリーズ

mini-ITXにも長いカード長や水冷に対応したゲーミングを謳ったコンパクトPCケースも存在する。しかし、そのようなケースは見た目も「ゲーミング」といった様子でデザインの選択肢が狭い。サイズも奥行きが異様に長いか、「mini-ITXサイズ」というより「ミニタワー」と形容したくなるサイズである事が多い。

2014年末から発売されている「METIS」は、自作PCケースらしからぬ、ヘアライン加工された特徴的なデザインと豊富なカラーバリーションながらも、安価な事から長い間売れ続けている定番の自作ITX-PCケースだ。

数万円もするケースと違い、安いのでガンガン加工、部品の取り外しが出来る点も人気の要因になっている。複数のカラーバリエーションを所有しているユーザーも少なくない。

Amazon「RAIJINTEK METISシリーズ キューブ型アルミニウム製Mini-ITXケース 」

RAIJINTEK METIS PLUSシリーズ

2017年11月からは「Metis」の天板上部に吸気口を追加した「Metis Plus」も発売されている。上部の吸気口によってデザイン性は少し低下するが、ハイエンドクラスのグラフィックボードを搭載する予定であれば、こちらの方がエアフローに無理がなくパフォーマンスも発揮しやすくなる。

Amazon 「RAIJINTEK METIS PLUSシリーズ キューブ型アルミニウム製Mini-ITXケース」

METISの公式対応ビデオカード長は17cm

本来Metisはカード長17cmを公称対応サイズとしている。そのため、17cm以上の長さのビデオカードは想定外になる。本来はヘビーなゲーミングPCとしての運用を想定したものではなく、ミドルロー~ローエンドGPUが前提と思われる。

しかし、所有者の絶対数が多いためか、自作魂をくすぐられるためなのか分からないが、17cmを超えたハイエンドクラスのグラフィックボードを載せるユーザーが後を絶たない。今回の事例であるGTX1080TIの実装もメーカーが想定していないイレギュラーな運用という事を述べておく。

外排気仕様のGTX1080TI Founders Edition

今回はMSIのGTX1080TIのFE版をチョイスしている。外排気仕様なので熱が篭りがちなコンパクトなPCでも利用し易い。またカード長26.6cmとMetisに収まった事例があるのも大きい。

オリジナルファン搭載の外排気モデルが各社から発売されているがManliのモデルは28.2cmと収まりそうにない。MSIの外排気オリファン版「TURBO-GTX1080TI-11G」は26.9cmとギリギリ接触しそうな値で ASUSの「TURBO-GTX1080TI-11G」は26.67cmと収まりそうな気配だ。

筆者の個人的な事情だがメイン作業機はGPGPUでゴリゴリ計算するために複数枚のGPU積みで運用されている。FE版は非ゲーミングの法人用途でもマルチGPU運用実績があり、将来の流用も踏まえて決定に至った。

*内排気のオリファンモデルは3,4枚積みは想定されてない。外排気のFE版なら複数枚積みのGPGPUマシンとして流用できる

MSI GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition(Amazon)

CPUの簡易水冷化による下準備

巨大CPUクーラーより組み込みが簡単な簡易水冷CPUクーラー

ハイエンドクラスのビデオボードを収めるにあたり、CPUクーラーをサイドフロー型の定番「虎徹」から簡易水冷であるサイズの 「APSALUS4-120」に換装している。ケース内部に熱を貯めにくく、ラジエーターから外部に熱を放出できた方がコンパクトPCには向いてそうだ。

「APSALUS4-120」はMetisに程よいホースの長さで、無理のないテンションで収まりやすい。簡易水冷という事で組み込み事態は簡単。全て揃っているのでネジ1本で設置できる。

スペースに余裕がない「虎徹」などの巨大なCPUクーラーより難度は低いくらいだ。

サイズ scythe 一体型水冷CPUクーラー APSALUS4-120(Amazon)

ITXでもOCできる余裕を確保しておく

簡易水冷による簡易OCながらもオーバークロックに耐えうる事が出来るようになった。個体にもよるが、限界なら4.8GHZ,4コア4.7Ghzくらいなら常用できる塩梅だ。i7-7700Kなら5GHz も狙えるだろう。

mini-ITXなのでOC事態は目的ではないが、定格運用の際に余裕をもたせ、ケース内部の熱も抑える事でグラボの吸気温度を下げる狙いになっている。

また、現時点ではVRでCPUがボトルネックになるケースは少ないが、ある程度OCできれば今後更なるハイクラスのグラボに換装した際にCPUがボトルネックになる事を防ぐ事が期待できる。

ケース構造の下準備

元々はライトなビデオボードを想定したMetisは、そのままではGPUの発熱処理に不安がある。そこでデスクトップ相当の性能を引き出すために簡単な加工処理をした。

ビデオボードの吸気を妨げる3.5インチシャドウベイを撤去する

Metisは小型ながらも2基の3.5インチストレージを収める事ができるが、上部のシャドウベイはビデオボードの真上に位置し、ファンの吸気を妨げがちだ。実際「R9 NANO」で運用してた際は、これを撤去する事でGPUの温度が低下していた。

このストレージベイはネジで天板に固定されているだけなので容易に撤去できる。

撤去するとSSDストレージの行き場がなくなりそうだが、水冷化しているため、底部ベイに収める事もできる。今回は後述するケースファンの増設オプションを残すために、SFX電源の横におさめてる。SSDが直接電源に触れるのは気になるため、余っていたPCIマウンタを挟んで対応した。

側面アクリルパネルをメッシュ化する

吸気が側面の小さな穴だけでは足りなくなりそうなので、アクリルパネルを撤去してメッシュ化した。(元々内部は見えなくても良いという考えと、設置すると見えなかった)メッシュ化はファン増設のオプションを残すために左側に置いている。

素材は設置すると見えないので、とりあえず加工が簡単なプランターメッシュを用いている。見た目が気になるようならステレス製の他の代用品の方が良いだろう。ネジで挟み込めるため、適用できる素材の範囲は広そうだ。

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26.6cmのGTX1080TI FE版をMETISに収める

メインのGTX1080TIを収めていく。なお「METIS」はATX電源も収納できるが、カード長17cmを越えるグラフィックボードを用いる場合はSFX電源でないと物理的にケーブルの取り回しが出来ない。

今回はCorsair製のSFX電源ユニット「CORSAIR SF Series」の「SF600」を用いている。GTX1080TIの推奨電源は600W以上であり、80PLUS GOLD認証とPascalアーキテクチャによる省電力化でハイエンドでも乗る具合だ。今のところ本構成全体で消費電力が400Wを越える事はないのでマージンはあるように見える

CORSAIR 600W SFX電源ユニット 80PLUS GOLD SF600(amazon)

前面のUSB・オーディオハブを撤去する

26.6cmというカード長を収めるには前面にあるUSBハブを撤去する必要がある。マザーボードには8つもUSB端子が搭載しており、Blutetooth、WIFIと全部盛りのITXマザーを利用しているので、特に困る事はない。

ネジを二箇所外すとハブは取れる。尚、固定しているビスのようなネジも外さないと干渉してしまう。

GTX1080TI FEを収めていく

METISの前面パネルを外さないとGTX1080TIが収まらない。パネルを閉めるとケーブルの整理が難しくなるので、この段階でケーブルを整頓していた方が良さそうだ。

USBの全面ハブを撤去する事によって、26.6cmのFE版がギリギリ入る。殆ど接触しているのではないかという具合のジャストサイズだ。数mm伸びるだけで蓋が閉まらない可能性が高い。

なおビデオボードは後方だけでなく、上方向も少しでも形状が変わるとスイッチ基板と干渉するギリギリ具合となっている。スイッチ基板の保護セロハンが取付け時に接触するので、気になる様なら数mmカットしておいた方が良いのかもしれない。

M2 SSDと9cmケースファン2基の増設

12cm1基+9cm2基の合計3基のケースファン

今回はデスクトップと同じ挙動になっているため見送っているが、水冷化によってサイドパネルに8~9cmのケースファンを増設できる余地が出来る。底面にも穴を開けるような加工をすれば、更に1つ増設も不可能ではなさそうだ。

今後、室温の上昇で熱処理が厳しくなりそうな気配があれば、対応オプションとなる

サイズ 鎌風の風PWM 92mm(Amazon)

ケーブルの取り回しから開放されるM2 SSD化

2.5インチのSSDを流用したが、狭いケース内でケーブルの取り回しが困難になっている。マザーボードの裏面にm2 SSDのスロットがあるので、ここならM2 SSDの熱がケース内に影響を与える事なく処理できそうだ。

熱処理に問題ないかデスクトップ機と比較テスト

無事GTX1080TIがmini-ITXケースに収まったが、排熱の影響は気になるところだ。フルタワー型のデスクトップに収まっているGTX1080TIと比較して、適切な性能が発揮でているか確認する事にした。

比較には徹甲弾ファンという冗談の様な名称が付いた18cmケースファン2基搭載のフルタワーケース「Raven4」の用いたデスクトップPCを用いている。手動でケースファンの速度を調整できるため全快状態にして比較する。なお、本機は16コア32スレッドのデュアルXeon構成でCPUの差異が出るため、GPUのグラフィックスコアを主な比較対象とする。

DirectX12ベンチマーク 3DMARK TimeSpy

高負荷である程度のマルチスレッドにも対応した最新のベンチマーク 3DMARK TimeSpyの結果が以下。総合こそ、Xeon機のCPUスコア分で若干の差がついているが、グラフィックスコアは上回っている。全体的にみて誤差の範囲といって良さそうだ。

・ITX機 (Core i7-6700K +GTX1080TI FE)

グラフィックスコア:9377

・デスクトップ機(Xeon E5-2640V3 ×2 +GTX1080TI FE)

グラフィックスコア:9310

一般的なデスクトップ機におけるGTX1080TI FE機と比較しても差異は殆どない様に見える。Xeon機は逆にCPUが殆ど遊んでおり、36スレッドに応じた恩恵は受けてれいない様だ。クロック周波数が低い分相殺されて思った程伸びてない。

その他 旧ベンチマーク

FireStrike(ノーマル FullHD)

古いベンチマークとなるFireStrikeも一般的なデスクトップ機との差はない様だ。このあたりの低負荷ベンチになると、スコアが飽和しており、GTX1080TI換装によるスコアの向上は小さくなっている点も差異はない。

FF14ベンチ FullHD DirectX11 最高画質

こちらも古いゲームの計測となっているFF14ベンチ。スコアが飽和して、CPUのシングルスレッド性能の影響が出やすい。そろそろGPUのベンチマークの役割は終えそうだ。

VR系ベンチマーク

・Steam VR パフォーマンステスト

SteamVR Performance Test は数値的には振り切っている。このベンチマークは前世代でもスコアが飽和しており、GTX1070くらいからは平均忠実度は「11」に近くカンスト状態だ。

フレームレートも200FPS安定、250FPS以上の状態も見られており、倍以上余裕がある状態だ。

忠実度11以上で伸び始める「テストされたフレーム」値は相応の伸び率を示している。こちらもデスクトップ機ともスコアは変わらず動作に問題はないようだった。

VR上での動作・デスクトップ機との比較

実際のVRゲーム上の動作は、通常では負荷が低すぎて測定しずらいため内部解像度を2.0の状態で比較した。細かい比較は以下に記している。

GTX1080TiのVR性能をhtc VIVE 内部解像度4.0(旧仕様2.0)で試す
VR対応を謳ったメーカー製の小型ゲーミングPCやノートPCはルームスケールVRと相性が良いが、拡張性に乏しく、進化の早いGPUの前で...

内部解像度2.0だとGPU処理が間に合っていても、特定の動作・シチュエーションによって、スパイクが発生するという点はデスクトップでも再現した。前記事のGTX1080TIで発生したスパイクはITXケース機、特有の現象ではない様だ

4Kゲームでの長時間動作確認

最後にVRより長時間動作を強いられる通常ゲームでのテストを行った。4K状態で長時間プレイで問題なさそうだ。

パフォーマンスはウィッチャー3のおいて、4Kで最高画質60フレーム安定には一歩届かず、50フレーム代となっている。シャドウやヘアーワークスのアンチ処理などを1段階下げる事で60フレーム安定という点もデスクトップと差異はなさそうだ。

今まではGTX980TIのSLIクラスでしか4K60フレームは現実的な動作が望めなかっただけに、移動可能なコンパクトPCでGTX1080TI単体で実用的な範囲に収まった事は大きい。高解像度でヌルヌル動いてる様子は次世代感が漂っている。

工夫で次第で動くMETIS+GTX1080TI

様々な動作テストを行ってみたが、一応今のところはコンパクトITXケースの「METIS」に「GTX1080TI FE」と組み合わせでデスクトップPCと遜色のない動作を確保出来ているようだ。

メーカーの想定カード長を超えた運用のため、推奨はしないが工夫次第ではハイエンドGPUも動くようである。暫く様子を見ながら、真夏に厳しいようなら設置を保留にしている9cmのケースファンをサイドパネルに1つ追加するといった所だろう。

Fallout4だけでなく、バットマンアーカイムVRなどPSVRからの移植も始まりつつあるPCVR。今年はこのMETISを用いたコンパクトVRPC+htc VIVEでPCならではのハイエンドなVR体験が楽しめそうだ。

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