htc VIVEの最大の特徴であるルームスケールVRを堪能するためには、ある程度の面積を持った部屋の準備が必要だ。日本の住宅事情を踏まえると厳しいところだが、リビングなら比較的大きな面積を確保しやすい。そこでリビングに置けるコンパクトでありながらハイパワーなmini-ITXベースのVR用パソコンを組んでみた。
htc VIVEとルームスケールとVR PCのジレンマ
VIVEとPSVRやOculus Riftの最大の違いはルームスケールVRだろう。空間内を自由に歩き、寝転んだり、仰向けになる事ができるのはVIVEならではのVR体験だ。これを実現するためには、ある程度の面積を持った部屋が必要になる。
書斎などでは大きな面積が取れないため、筆者の環境ではリビングを利用せざる負えない
しかしリビングにメインPCを設置するのはインテリア的にもサイズ的にもありえない状況だった。メイン機はVRレディのスペック要件は十分に満たしているが、フルタワー型でリビングに設置するには存在感がありすぎる。何よりVIVEで遊ぶ度にPCを移動させるのが面倒だ。
リビングに置けるコンパクトなゲーミングVR PC
そこでリビングに設置しても違和感が少ないコンパクトなMini-ITXケースを利用したVR用のパソコンを組むことにした。自分の目的にあったパーツを選択して、組めるのは自作パソコンの醍醐味である。
Mini-ITX規格はわずか17cm×17cmと小さなマザーボードを用いて構成され、マイクロATXより更に小さい。VRレディを達成するためには、相応のパーツが必要になるが、内部スペースの都合パーツの組み合わせはある程度限られるため事前の調査が重要になる。
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ケース
コンパクトサイズPCが自作界隈でも盛り上がっているため、ケースの選択肢はある程度広い。ミニITXベースでも比較的長めのグラフィックボードを収納できるケースも存在する。ただし、そのようなケースはコンパクトPCというよりミニタワーに近いサイズになってくる。前から見るとコンパクトでも奥行きが異様に長く、デザインのバリーエーションも限られる。
今回は「リビングに置けるコンパクトなVR用PC」をコンセプトとしてるため、フルサイズのグラフィックボードを収納できるような大型miniーITXケースは選択肢から外し、デザインバリエーションも豊富なmini-ITX規格の本来のサイズ周辺で収める事とした
ケースはRaiJintek 「METIS」をチョイス。ITXケースながらもATX電源収納可能。カラーバリエーションが多く、自分の部屋のインテリアに合わせた色を選べる。低価格ながらも表面のヘアライン加工が行われており、見た目も良い。
部屋の家具に合わせるとなると無難な「白」か「シルバー」だろうが、部屋に差し色も欲しかったので、あえて極端なカラーの「赤」を選択した。
CPU
CPUはDirectX11ではマルチスレッドを活かせておらず、Core i5以上は効果がない状況だった。しかしDirectX12に移行するに従って、徐々にマルチスレッドの最適化も進んでくる。VRは一般のゲームより早くDirectX12がメインになってくると予想されるので、今回は最新のSkylake世代の4コア8スレッド 「Core i7 6700K」を選んだ。
排熱問題を踏まえるとオーバークロック可の「K」付きプロセッサを選ぶ意味はなさそうだ。しかし逆にアンダークロック(ダウンクロック)する事で発熱を抑えるオプションも選択できる。排熱のクーラーオプションが限られてるMini-ITXなので選択肢は多い方がよい。またK付きだとデフォルトでクロック周波数が高いのもVR向けだ。
4月以降Corei 7 6700Kの価格が値下がりしており、6700と大差なのも大きい。
マザーボード
リビングに設置するPCということで全部入りのASUS Z170I PRO GAMINGを選択。「Wifi」,「Bluetooth」をデフォルトで備えており、VRパソコン用に何も足す事なく利用する事ができる。元々オーバークロック前提に作られているため、負荷耐性も高いだろう。
同じような機能を持ったマザーボードでより安価な板はAslock等から発売されているが、CPUクーラーの取り付け位置に癖があり、Metisケースのような小型ケースの場合はCPUクーラーの干渉問題がある。その点、このマザーボードは定番化してる事もあり、Metisのような小型ケースでの実装例も多く、各パーツが確実に収まる点もポイントが高い。
メモリ
値下がりが著しいDDR4メモリ。1年で半額まで落ちてきた8GB×2枚をチョイス。16GBあればVRでも足りなくなる事はないだろう。32GBを要求するようなタイトルはコンシュマーゲームとのマルチ化が困難になるため、メーカー側もそのようなチューニングは行って来ないと予想される。
これもアンダークロックで動作させる事で発熱が少し収まる事を期待してPC4-19200にした。
CPUクーラー
Mini-ITXは排熱がボトルネックになる事が多いので、ある程度の冷却性能をもったクーラーが欲しい。そこで定番の虎徹を選択。「Metis」での搭載例が多いのも決め手だ。Metisのケースファンの位置からもサイドフローCPUクーラーの方がエアフローが良さそうに見える。
グラフィックボード
VRパソコンの中枢を担うグラフィクボードには「Radeon R9 NANO」を添えた。GTX980に迫る性能を持ちながらもカード長15.8cmというAMDでは久しぶりのヒットカードだ。ショート基盤を採用しているGPUの中では今現在は最高性能になっている。
本カードは年末に止むに止まれぬ事情があり、仕方なく購入したものだ。当時は9万円もしたが、現在は6万近辺まで値下がりしている。メイン機から退役しており、使い道がなかったのだが利用価値を見い出せて良かった。
ミドルタワーケースに収めるとカード長の短さが分かる。また電源ケーブルが昨今のグラフィックボードには珍しく後部になっており、横幅が薄いスリムタワー等でも収まる。
Radeon R9 Furyと同じFijiコア フルスペック仕様でありながらも発熱は押されられている。VRレディ水準を満たしてる数少ないショートサイズのグラフィックボードだ。
VR Redyの目安
今現在VIVEを遊ぶためにはMini-ITXサイズだとショート版GTX970との二択になる。両者とも値ごろ感もあり、VRラインナップが十分とはいえない現状、悪くない選択肢だとは思う。
勿論ショートサイズ版のGTX1070が発売されたら、GTX1070一択になる。ただグラフィックボードは取り換えが容易なので 欲しい時・必要な時に買えば良い。VIVEで今遊べる事が重要だ。
電源
MetisはATX電源が収納できるケースだが、今回はCorsair製のSFX電源ユニット「CORSAIR SF Series」の「SF600」をチョイス。80PLUS GOLD認証で600Wとハイエンドグラフィックボードでも十分対応できる。ケーブルが取り外せるフルモジューラー形状はケース内部の面積が厳しいMini-ITXでは必須である。特にMetisの場合、ATX電源だとケーブル取り回しが困難になるため、グラフィックボード等のパーツの選択に制限が発生する。
サイズは125x100x63.5 mmとATX電源に比べるとコンパクト。ケーブルが短めなのもMini-ITXを組む際には助かる
保証は品質に自信がなければできない7年。ただし保証シールが間違って捨てやすい場所にあるので注意が必要だ。
SSD
ストレージは手元にSamsung 840PRO 240GBが余っていたので流用した。前世代のSSDだが性能的には大きな見劣りはない。結論を述べると、このチョイスが失敗だった。ストレージの増設が不可能なMini-ITXベースのコンパクトPCでは可能な限り大きなストレージを搭載したほうがよい。240GBではゲームをインストールするには小さすぎる。
SSDの値下がりは著しいので最低でも480GB。可能であれば960GBあれば容量を気にせず使えただろう。
OS・小物
OSはVRの場合、今後CPUとGPUの性能を引き出すDirectX12を利用する事になるのでWindows10しかない。パーツ構成の変更も踏まえると価格差も微々たるものなのでパッケージ版で良いだろう。
ATX対応の「Metis」ケースの場合SFX電源のSF600は、そのままでは収納できない。ATX電源に取り付けるためには変換プレートが必要になる。SFX<->ATX電源変換プレートはSFX電源によっては付属してる事があるが、SF600には付属してにない。
構成パーツ価格一覧
追記:GTX1070のショート基盤タイプがリリースされた模様。価格的には値下がりしたNanoより高価だが、パフォーマンスはNanoより総じて高い。