ローエンドでもVRしたい AMD編「Radeon RX 550」ベンチマーク、VRゲーム性能レビュー

VRは2枚のディスプレイに高解像度の映像を高フレームレートで表示させる必要があるため、高いGPU性能が求められる。「Radeon RX 500」シリーズでも上位の「RX 570」「RX580」以上が「VRレディ」となっている。

しかし、PSVRでは「Radeon HD7850」や「GTX750ti」程度の性能であり、数年前の低いGPUでもVRを実現している。プロセス技術が進化した最新GPUのローエンドクラスは実際にはどの程度、VRが動作するのだろうか。

今回は通常のゲーミング性能・GPUベンチマークに加えて、RX550のVR性能にもスポットを当てて見ていく。

追加されたローエンドGPU「Radeon RX 550」

AMDの最新GPU、「Radeon RX 500」シリーズは基本的に「RX 400」のクロックアップモデルとなっており、殆どリネーム品状態だ。

順調に価格が下落してきた「RX400」シリーズだったが、「RX500」シリーズで一気に価格が元通りになった。更にマイニング需要によって「Radeon RX 580」「RX 570」の価格が急上昇している。

ゲーマーには逆風となっている「RX500」シリーズだが、下位シリーズはトピックがある。「Radeon RX 560」はシェーダー数が「896」から「1024」に増加し、性能の底上げが図られている。更に「RX400」シリーズにはなかった50番代のローエンド「Radeon RX 550」が新規に追加された。

NVIDIAの新ローエンド「Geforce GT1030」の対向製品となる「Radeon RX 550」

今回テストするグラフィックボードはXFX社の1スロットタイプの「Radeon RX550 4GB」モデルとなっている。XFXは数年前までは国内でも流通していたグラフィックボードメーカーだった。しかし、2012年に国内代理店のリンクスインターナショナルが販売代理店契約を発表したが、その後に国内展開を停止しており、RX400シリーズ以降は流通していない。

この「RX-550P4TFG5」も国内では代理輸入店くらいしか販路がない状態だ。ロープロファイル版の「RX 550」やファンレス仕様の「Rx 460」など、魅力的な製品を展開しているXFX社だけに、国内代理店は販売を再開して欲しいところだ。

スリムシングルで最先端の映像出力ポートに対応

スリムシングルながらもディスプレイポート1.4とHDMI2.0bという最新の映像端子の構成になっている。仕様的にはVRディスプレイ出力しつつ、4K 60Hz表示も可能だ。DVI-Dも備えているため、古めのモニタでも活用できる。

ベンチマーク、通常ゲーム性能、消費電力

VR動作を見る前に基本のGPU性能を見てみよう。最新GPUアーキテクチャによるローエンドモデルは最新ゲームでどの程度性能を発揮する事ができるのだろうか。

ゲーミングベンチマークと実際のゲームのFPS・電力効率を競合する代表的なGPUと比較していく。

3DMARK TimeSpy & FireStrike Full HD

DirectX12のゲーム指標となる「TimeSpy」とDirectX11のゲーム指標となる「FireStrike」のスコアが以下。ローエンドとはいえ、前世代のゲーミングエントリーモデルGTX750TIとほぼ互角のスコアを叩き出している。

ライバルの「Geforce GT1030」と比較しても、3DMark上では高いスコアが出ている。

FF14蒼天&紅蓮ベンチ

古めのゲーム性能の指標なるFF14ベンチ。NVIDIAに有利なスコアが出やすい。ここではGT1030と互角といったと所だ。ローエンドとはいえ、フルHDで「快適」判定が出ており、設定を調整する事で、FF14を楽しめる事が期待できる。

実際のゲーミング性能

ゲーミング系のベンチマークではGT1030と比較しても互角程度だったが、実際のゲーム動作では「RX550」が明確に勝っている。グラフィックオプション次第では、PS4世代のAAA級のマルチタイトルでも平均30FPSを維持しており、十分遊べる水準だ。

最高画質60FPSヌルヌルとはいかないが、PS4相当の中画質30FPS程度なら十分動作可能となっている。前世代のGT730とは2~3倍近いフレームレートを叩き出している事を踏まえると、ローエンドとはいえ設定を調整する事で、最新のゲームでも何とかプレイする事も可能なGPUと見て良さそうだ。

とはいえ、「Geforce GTX1050 TI」との性能差は大きい。PCでのゲームが目的であれば、数千円足してGTX1050かGTX1050TIまで広げる事で快適度は飛躍的に挙がりそうだ。

消費電力比較

ローエンドクラスという事で省電力性は期待できる。ライバルのGT1030には及ばないが、GTX1050TIと比較すると40W近く低い消費電力に収まっている。

Radeonの特徴である30フレームの動画を60フレームに補完再生する機能「Fuildmotion」利用時も、コアクロックの制御によって電力の増加を抑える事ができている。GPUをフルパワーで利用するゲーミング中と比較する、消費電力の差は大きい。

VR系ベンチマーク

SteamVR Performance Test

SteamVRの基準となるベンチマーク。「GT1030」では「0」判定だったが「RX550」はかろうじて「0.1」となっている。しかし「VR使用不可」判定で本来はVR用のGPUではない事が分かる。

「Steam VR Perfomace Test」はスコアが「6」以上で「VRレディ」判定となる。「RX470」ではギリギリ「VRレディ」未満だった判定が「RX570」では「6」を超えており、なんとか「VRレディ」といえる水準に達している。

90フレーム維持が快適なVR体験の規準だ。従ってそれに達しない場合は容赦なくスコアが落とされている。RX560とRX570のスコア差は実際のGPU性能の差より大きい。

VRMark Orange Room

スコアが5000以上でVRレディ判定となるVRMark。「Orange Room」は比較的軽量なVRベンチマークだ。ここでは概ねGPU性能の割合どおりのスコアとなっており、GT1030とは明確なスコア差があるが、VRレディの50%程度に留まっているといった感じだ。

Steam VRゲームをRX550で実際に動作させてテスト

スコア的にはVRレディに全く達していない「Radeon RX550」だったが、実際のVRゲームでの動作はどうだろうか。ここからはSteamVRでの実アプリケーション内の挙動を見てみる。

90フレーム維持が求められるSteam VR

VRで90フレームを維持するためにはCPUとGPU共に11ms以内に処理を完了させる必要がある。どちらか片方でも所持時間が11msを越えると90フレームを維持できなくなり、VRの快適度が大幅に低下する。

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再投影オプション設定

テストではインターリーブ再投影をオンにしている。このオプションを実行するとVR中に90フレームを数フレーム大きく下回る状態が続くと、45フレームに固定される。

インターリーブ再投影オフの方が平均フレームレートは高くなるが、VRの場合、非同期再投影でカバーできない程にフレームレートが激しく可変すると「ジャダー」や「スタッター」と呼ばれるカクつきや映像の乱れが発生し、酷いVRを誘発する。しかし、45フレームに固定する事で、快適とは言えないが一定のVR体験が維持できる。

用語がややこしいので、仮に以下のように置き換えて進めていく。


インターリーブ再投影の状態 → 45フレームモード

非同期再投影が頻繁に発動している状態 → 疑似90フレーム


Supersampling「1.0」だけでは厳しいので「0.8」もテスト

Steam VRの基準値では負荷が高すぎるため、SuperSamplingオプションの値を1.0から0.8に落として、GPU負荷を下げた際のパフォーマンスも合わせて測定している。

http://indiegame-japan.com/2016/07/12/post-1130/

VR快適度の判定基準

ロークラスのGPUではVRに必要な90フレーム維持 11ms以内の処理完了は厳しい。そこでSuperSampring値が「0.8」のときに、以下の様なVR快適度の基準を授けて判定していく。

基本的に快適なVR環境を構築するためには上記の表で100%が必要になる。この判定基準はあくまでGPUの性能がVRレディ未満のテストにおける特殊なケースだ。

Steam VR 基準ゲームソフト「The Lab」

「SteamVR」で大半のプレイヤーが最初に体験するValve社の「The Lab」。パフォーマンス・チューニングも適切に行われており、VRアプリケショーンとしての品質も高い。

各GPUのフレームレート比較

流石に「RX550」では90フレーム維持は厳しいが、「GT1030」が「1.0」では全く歯が立たなかった事を踏まえると「RX550」はかなり健闘している。45フレーム固定のインターリープ機能のため、「1.0」と「0.8」では差が出ていない。「非同期投影」でも補完しきれない程、90フレームに届いていないため、この辺が「RX550」のVRの限界といったところだろう。

Oculus RiftならGPUのハードルが低くなるため、RX550でもそれなりに遊べることが期待できる。

*SS=SuperSampling

The Lab(コンテンツ選択部屋)VR快適度 30%

The Labで各コンテンツにアクセスする部屋のフレームレートの推移が以下。Supersampling(以下SS)値が「1.0」ではインターリーブ表示の45フレームモードがギリギリ維持出来ていない。

SS値が「0.8」だと完全に45フレームで維持できている。残像が目立ち、快適とはいえないがVR酔いなしで移動、周囲を観察は出来る。

LONGBOW VR快適度 30%

LongBowはThe Labのコンテンツ内でも比較的軽量なタイトルだ。0.8でも45フレームで安定している。残像が気になるが、何とかプレイは可能だ。

「0.8」だとGPUに多少余裕ができるため、瞬間的に90フレーム動作に入ろうとするが、直ぐに45フレームに戻ってしまう。試しにインターリーブを解除してみたが、非同期再投影だけでは追いつかず更に不快になった。半端なフレームレートになるくらいなら45フレーム固定のほうが遊べる様だ。

Seecret Shop VR快適度 30%

The Labの中でも相応に重いコンテンツ。リアルタイムの光源処理とシャドウがGPUに負荷をかける。「1.0」だと45フレームを下回るケースもあり、周囲を見渡すとカク付きを知覚できる。

「0.8」だと手元の光源なしで視界の方向によっては90フレームが維持できる。しかし光源を持つと完全に45フレームで固定されている。

軽量Steam VRゲームソフト

VRレディの規準に比較的忠実な「The Lab」だが、SteamVRは1000を越えるゲームがリリースされており、負荷の高さもバラバラだ。ここではSteamVRタイトルの中でも比較的軽量なタイトルを見ていく。

各GPUのフレームレート比較

SoundBoxでは何故かGT1030より厳しい結果となっているが、Gunjackはかなり安定して遊べる水準に達している。このクラスの負荷のアプリケーションならRX550でもなんとかVR体験可能と見える。

*SSは「Supersampling」の略

SoundBox VR快適度 60%

アニメタイトルでランキングが埋めっている定番リズムゲーム。「1.0」でほ殆ど45フレームを維持できており、残像さえ許容できれば何とかプレイできる範囲だ。

0.8にするとギリギリ90フレームを維持できない感じで、エフェクトが重なると一気に45フレームに戻ろうとか可変する。非同期再投影が効いてる局面も多く、比較的スムーズにプレイ可能だった。

GUNJACK VR快適度 90%

元がスマホVRからの移植でかつ、着座前提のタイトル。メニュー操作と冒頭の発進シークエンスは「1.0」でも45フレームを維持できていないが、それ以降は45フレームで安定してプレイできる。

「0.8」では殆どのシーンにおいて「90フレーム」を維持できている。エフェクトが重なるシーンでは瞬間的に落ち込むが直ぐに戻る。派手なエフェクトと、視点が前方固定という事が相まって、殆ど気にならないレベルだ。

重量級(*)Stam VRゲーム

最後に比較的、グラフィック品質が高くGPU負荷も高めなタイトルを見ていく。

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http://indiegame-japan.com/2017/04/26/post-2649/

各GPUのフレームレート比較

傾向としてはこれまでのVRゲームと大差ない。多少の残像を許容するなら「RX550」でも何とかプレイ可能だが、決して快適とは言えない。半分のフレームレートで済むOculus Riftであれば、もう少し頑張れそうだ。

*SSは「Supersampling」の略

Batman Arkham VR VR快適度 30%

「Fixed Foveated Rendering」や「Multi Res Shading」が駆使されており、リッチグラフィックの割には軽量なバットマンVR。以下は画質オプションはタイトルの限界まで下げた状態だが、極端に重いシーン以外はなんとか45フレームで維持できている。

0.8の場合は軽いシーンや方向では90フレームでも動作する。しかし概ね45フレーム固定といったところだ。試しにインターリーブオプションを解除してみたが、45~75フレームを激しく変動して、カクつきや頭の方向のズレが気になった。

非同期再投影だけでカバーできるフレームの落ち込みではなさそうだ。

The Blu VR快適度 15%

クラゲの大量出現シーケンスではVRレディの「Rx480」でも処理が追いついていなかった本タイトル。流石に重く、「1.0」では45フレームにすら達しておらず、視界のカクつきが激しいい。慣れていてもVR酔いが直ぐに発生しそうだ。

0.8まで落とすと、軽いシーンではなんとかプレイできるが、終盤のクラゲ大量出現シーンで瓦解する。「The Blu」はRX550のVR性能では妥協しても厳しい。しかし、クジラのストーリーでは45フレームは維持できていたので、コンテンツによって負荷の差も大きいようだ。

意外に動いた?Radeon RX550によるVRプレイ

現行AMDのGPUでも最も下位クラスに位置する「Radeon RX 550」だが、軽いVRタイトル程度であれば何とか遊べる水準に達している様だ。

勿論、決して快適ではないため、推奨はしないが、htc VIVEを用いたStamVRのフレーム補完技術がOculus Rift並になれば、多くのタイトルが十分許容できる範囲で動作する可能性は高い。

今回の「Radeon RX 500」シリーズ は殆どリネーム程度に更新に留まったため、「RX400」シリーズからの大きな性能飛躍はなかった。しかし次世代GPUで製造プロセスが更新され、アーキテクチャも進化すれば、ローエンドクラスのGPUでVRレディ水準に達するのも、そう遠くなさそうだ。

消費電力の低いエントリークラスのGPUが進化すれば、外部機器を用いずに単独で動作するVR機器も可能になる。今後もGPUの進化にも注目したい。

http://indiegame-japan.com/blog/2017/05/01/post-2634/

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