RadeonR9 NANOをベースとしたリビングに設置できるコンパクトVRパソコンをMini-ITXケースで組んでみた。前回のハードウェア編に引き続き、今回はVRの動作、各種ベンチマーク・ゲームの挙動や温度状況を中心に掲載する。
スペックまとめ
CPU:Core i7 6700K
マザーボード:ASUS Z170I PRO GAMING
メモリ:PC4-19200 8GB×2
ケース:RaiJintek 「METIS」レッド
グラフィックボード:Radeon R9 NANO
電源:CORSAIR SF Series SF600
CPUクーラー:虎徹
OS:Windows10 home 64bit
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Steam VR Performance Test(VRベンチマーク)
htc VIVEでのVRの挙動をテストするベンチマーク「Steam VR Performance Test」。基本的にはGPUメインの動作テストだが、これでVRレディに持っていけるかがVRパソコンの基準になる。VRレディ未満だとドロップフレームが発生したり、描画が追いつかず3D酔いの原因になってしまう。実際、主だったVRタイトルの推奨スペックもVRレディ付近が多いようだ。現時点ではバーチャルリアリティの標準ベンチマークとも言えるだろう。
結果はVRレディを十分に上回る8.3(非常に高い)。90fps以下のフレームは0%であり、動作中100fpsを下回る事もなかった。グラフは流石に980ti機のように天辺に張り付くような事はなかったが、現在のVRタイトルを動作させるには十分のスコアに見える。
実際VRタイトルの挙動
実際にhtx VIVEでの挙動はどうだろう。「The Lab」ではフレームの欠落を確認できなかった。重そうなシーンで顔を素早く降っても知覚できないレベルだ。全コンテンツでプレイ中も違和感なくVRを体験できる。
弾幕が大量に発生してるシーンでも快適にプレイ可能だった。フレームドロップは知覚できない。
幾つかValve製以外のVRタイトルも試したが特に動作に違和感はなさそうである。各社VRレディの下限GTX970あたりをターゲットにチューニングしており、GTX980と張り合うR9 NANOのGPU性能があれば余裕があるようだ。
ゲームベンチマーク
DirectX11でメジャーなFF14ベンチでテスト。設定は最高品質の1920*1080のフルHD。スコアは「12000」に迫る良好な数値が出ている。フルHDまでのタイトルであれば、それなりの高品質オプションで高いフレームレートを維持したまま遊べそうだ。
ゲームの挙動
TombRader(2013)程度ならヘアー品質も含めた最高画質でもフルHDなら60FPSで楽しめる。ゲームプレイ中はエフェクトリッチなシーンになっても60フレームを維持していた
カットシーン等では50FPS台に落ち込む事が稀にあったが、SSDの読み込みタイミングとも一致していたのでGPU性能だけの問題ではないだろう。PS3世代とPS4世代のマルチタイトルであればフルHDの最高画質60FPSで遊べそうだ。
PS4世代でも比較的ヘビーな「Witcher 3」ではフルHDでも最高画質は厳しそうだ。ヘアー設定はウィッチャー3の場合、「Nvidia hair works」なのでAMD Radeon系ではオフにするしかない。ヘアー設定をオフにしても最高画質では60FPSでは安定せず、50~60FPSをウロウロしていた。
そこで木・草の遠方表示範囲を1段階落としたところ60フレームで張り付く安定動作になった。今世代でも2値抜きとは言えアルファの表現は鬼門のようだ。とはいえ遠方の表示なのでホッピングはほどんど気にならないレベルである。プレイには影響ないだろう。
直近のヘビーゲームの場合、フルHDの最高画質から少し調整するという条件であれば60FPSで楽しめる。GTX980TI SLIと比較してもプレイ感覚は全く変わらないので 実用上は必要十分と言えるだろう。
温度
CPUやGPUの温度が高くなりすぎるとサーマルスロットリングなどの現象が発生してクロック周波数が低下し、パフォーマンスが落ちてしまう。 Mini-ITXケースの場合、排熱処理のオプションが少ないため、ミドルタワーケースより問題が顕在化しやすい。
とくにVRの場合、負荷がピーク状態が続くため排熱処理には注意が必要になる。Metisの場合、側面に吸気穴があり塞ぐような設置方法を行うとあっという間にサーマルスロットリングが発生してしまう。
CPUの温度はVRゲームも一般的なゲームベンチマークと大差ない挙動になっていた。温度は65℃近辺で収まっており、タワー型に比べてやや高い程度だが、許容範囲だろう。今のところはアンダークロック等の処置は必要なさそうである。逆にASUSのAI Suite 3がデフォルト値で微量なオーバークロックが入ってる。
GPUの温度は、VR時は73℃に固定されており限界許容値の83℃までは少し余裕がある。GPUクロックが953Mhzに抑えられてるためだろう。ファンスピードも100%にはなっておらず、多少のオーバークロックの猶予はありそうだが、Metisのケースレイアウトを見ると、GPUクーラー側は完全に塞がっているため排熱に余裕はなさそうだ。GPUがボトルネックになるまでは現状維持が良いだろう。
360度動画で高まるCPU負荷
興味深い点として、リアルタイム3Dグラフィックでは65℃程度に収まっていたCPUの温度だが360℃のVR動画をhtc VIVE上で再生させてみたところ、80℃に迫る温度の上昇が確認できた点だ。通常、昨今の動画再生はGPUの再生支援が働くため、フルHD動画程度であれば殆どCPUの負荷がかからず再生できる。
VR系の360度動画の場合、GPUの再生支援が働かずにCPUヘビーになっているのだろうか。この辺は本VRタイトルだけの挙動の可能性も高い。今後いくつかのサンプル数を集めて探る必要がある。排熱が厳しいパソコンでVIVEでVR動画を視聴する場合は留意が必要である。
マルチスレッドとOpenGL性能
マルチスレッド性能とOpenGL性能も計測した。DirectX12ではマルチスレッド性能も活かされる可能性が高い。VRのDirectX 12対応は早いと予想されるためCPUのマルチコアが早い段階で発揮される事が期待できる。
マルチスレッド値はマイルドなOC状態で「927cb」とコンシューマー系のCPUでは、そこそこの値を出してる。開発系基準だと寂しい数値だが一般利用なら問題ない。シングルスレッド性能は「172cb」とやや伸び悩む。誤差かmini-ITX特有の排熱不足の陰りだろうか。
消費電力
消費電力は通常利用時は40W~45W程度。ベンチマークやVRの高負荷時には220W前後、待機電力はわずが0.8Wだった。Skylake世代になって、消費電力は低下傾向にあるが、このクラスのグラフィックカードを積むと通常利用時に40Wを切るのは難しくなる。とはいえゲーミング・VR PCでこの値は悪くない。
現在のVRコンテンツを楽しむには十分の性能
一通り動作させたところ、コンパクトPCながらも、現在htc VIVEでバーチャルリアリティコンテンツを楽しむには十分の性能を示してくれた。VRはまだタイトル事態が不足しており、よりハイエンドな性能を要求するタイトル事態が存在しない。普及台数を想定するとコスト的に許されないからだ。PSVRの発売以降、徐々にこの状況は変化していくと思われるが、現在VRを楽しむには必要十分そうである。
2016年5月現在、コンパクトPCでVRレディを達成しようとするとグラフィックボードの選択肢は極端に限られる。
今後、VRタイトルが充実し、よりハイエンドなグラフィックボードが必要になった時にPascal世代のGPUやAMDから新たに発表されたPolaris系に期待したい。性能比の発熱の抑えられているので、よりコンパクトPC向けであり換装も容易だろう。
関連:リビングに置けるVR用のコンパクトPCを組んでみた1(ハードウェア編)