1万円台のSteam VR対応「マウスコンピュータ G-Tune GTCVRBK1」レビュー。格安VR HMDの実力と性能を試す

VRの価格破壊が止まらない。当初は10万円以上したVR HMD機器だが、htc VIVE、Oculus Riftの発売から2年を経て徐々に価格が低下し、現在は4万~7万円で一式が揃う様になった。とはいえ、まだまだ高価なデジタル機器である事には変わらない。

そこに税込み18,144円(税抜き16,800 円)という激安VRをマウスコンピューターが投入した。しかもSteam VR対応だ。この1万円台で買えてしまう「G-Tune GTCVRBK1」は果たして本当に使い物になるのだろうか。今回はこの格安「VR-HMD」をレビューしていく。

G-Tune GTCVRBK1の仕様と他VR HMDとの比較

「GTCVRBK1」はパソコンに接続して利用するVR-HMDだ。他のPCVR機器は2枚のHMDパネルを用いているが、GTCVRBK1は1920×1080の1枚のパネルで構成されており、トータル解像度は低い。パネルスペック上はPSVRに近いが、有機ELではなく液晶を採用している。

リフレッシュレートは60Hzと他のVR機器と比較するとダントツに低い。そして、他のVR機器との最大の違いはポジショントラッキングに対応していない点となる。視点の上下左右の回転の変化には対応できるが、上下左右の移動、頭の動きには対応しない。つまり、他のVR機器では頭を床に近づけば、VR視点も床に近づくが、GTCVRBK1の場合は、床が頭の動きに合わせて遠ざかる。

上記のようにVR空間内を動くことはできずに、完全に位置が固定された状態に限定され、「GTCVRBK1」は1000~2000円程度で販売されている「スマホゴーグル」と変わらないとも言える。

加えて、モーションコントローラーにも非対応となっており、VR中の操作はゲームコントローラー・キーボード・マウス等の従来型のインターフェイスに限られてしまう。オプションで追加する事も現時点では不可能だ。

仕様詳細・推奨動作環境

推奨動作環境は以下のとおり。CPUはCore i5以上とだけ表記されており、どの世代のCore i5以上かは示されていない。第1世代と第8世代のCore i5の性能差は数倍にも及ぶ事を踏まえると曖昧な指定だ。

GPUはGTX1060以上とhtc VIVEやOculus Riftと比較すると数段高い。秒間60フレームしか処理する必要がなく、パネル解像度も低いのに要求スペックが高い点は疑問だ。

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動作環境(推奨)

OS:Windows10
CPU:インテルCore i5 プロセッサー以上
メモリ:8GB以上
ストレージ:256GB以上
映像出力:HDMI1.4×1
USB:USB2.0以上×1
グラフィックス:GeForce GTX 1060同等、またはそれ以上を推奨

製品仕様

スクリーン:5.5型 1920×1080
リフレッシュレート:60Hz
レンズ:非球面レンズ
視野角:100度
瞳孔間距離・レンズ距離:調整機能なし
インターフェース:HDMI Version1.4 (1.9m)、USB2.0 Type-A (0.25m)、3.5mmヘッドホンジャック
本体サイズ:211×131×94mm
重量:490g (HMDI+USBケーブル含む)、530g (付属のヘッドバンド含む)

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梱包・付属品・外観

さて、ここからは梱包・付属品をチェックしていこう。モーションコントローラーやポジショントラッキングに対応していないため、「GTCVRBK1」はHMDのみという事もあり、化粧箱はコンパクトだ。

初心者向けを意識してか、マニュアルは懇切丁寧である。VR機器ではオンラインやソフトウェアによるマニュアルが主流になっているだけに、逆に新鮮だ。

マニュアルには専用ソフトウェアのインストールからSteamVRのセットアップまでカラーイメージと日本語で詳細に記されており、これを追っていけば、初心者でも躓く事はないだろう。

付属品

マニュアル以外の付属品はHMDを頭に固定するバンドとレンズ拭きのみとなる。

固定バンドはHMDと頭部を固定するバンド以外にも、ケーブルを束ねるものも付属する。

外観

外観は高価なPCVRというより、安価なスマホゴーグルそのものだ。

ポジショントラッキング機能がないために、表面には何もついておらず、「黒い箱」といったデザインとなる。触ると指紋が付きやすく目立ちやすいプラスチック筐体だ。VIVEやOculusといったPCVRと違い、いかにも安物といった質感になっている。

クッションの形状にはノーズクッションなどの機能はない。形状はVIVEに近く、マジックテープで取り外し可能なため、互換クッションを流用する事も可能だ。

ヘッドバンドは付属品をユーザーが自分で通して準備することになる。一応イヤホンジャックも備えており、HMDから直接サウンドを引き出すことができる。

ヘッドバンドはよくある3点のバンド固定方式で、後頭部や左右こめかみ部分に硬いパーツが露出していないので、比較的寝転んで利用しやすい。

レンズ

レンズは「非球面レンズ」と記載されている。VIVEやOculus Riftのようなフレネルレンズ構造ではないので、同心円状の分割線ようなものはなく、透明度の高いフラットな面だ。

・左 GTCVRBK1 右 VIVE

レンズサイズはかなり小さく、VIVEより一回り小さい。Windows MR機器と同程度といったところだろうか。スペックシート上の視野角もWindows MR機器に近い100度となっている。

・左 GTCVRBK1 右 VIVE

接続ケーブル

接続ケーブルは1本のみで、先端がHDMIとUSBに分割されている。電源はUSBから供給される。接続のシンプルさもWindowsMR機器と同レベルだ。

着座前提という事もありケーブル長は2m程度だが、必要十分だろう。

セットアップ方法

ドライバ・ソフトウェアのインストール

GTCVRBK1のインストール用のドライバ類は専用サイトからダウンロードして利用する。ソフトウェア以外にも手順がオンラインで確認できるようになっており、初心者にも優しい

・GTCVRBK1専用サポートページ

https://www2.mouse-jp.co.jp/ssl/user_support2/GTCVRBK1.asp

インストールソフトウェアにすべての手順が記されているため、この通りに進めるだけで初期セットアップは完了する。 

SteamVRのセットアップ

スチームVRのセットアップもマニュアルどおりだが、インストールしただけでは「ルームがセットアップされてません」と表記され、認識されてないような挙動を示す。

「ルームセットアップを実行」から「立位のみの設定」を選択してセットアップを完了する必要がある。ちないみに「立位」と表示されるが「GTCVRBK1」はポジショントラッキングがないため、立っても座っても関係ない。

無事セットアップが完了すると、そのままSteamVRの初回チュートリアルが始まる。普通のPCVR機器であれば、Portalの世界観でVRの中で各種Steam VRの基本操作を学ぶことができる。しかしポジショントラッキングに対応していない「GTCVRBK1」だと「境界」の概念もなく、モーションコントローラーもないので意味がない。

その他不明な点があれば、マウスのサイトで細かく説明補足されている。この辺は国内メーカーのサポートが受けれるメリットだ。

マウスサポートFAQ

https://www2.mouse-jp.co.jp/ssl/user_support2/sc_faq_list.asp

上記で「GTCVRBK1」で検索

Steam VRのソフトウェア動作

では実際にStaem VRで「GTCVRBK1」がどのように動作するか見ていこう。

Steam 内のVRソフト

Steam VR対応ソフトであれば、Steamのストアで「GTCVRBK1」が対応表記されていなくても、とりあえず動作する。HMDに「映る・映らない」は機種判定は行っておらず、Steam VRに対応していればHMDに映像は表示されるようだ。

モーションコントローラーを利用しないソフトであれば、そのままゲームコントローラーで普通に遊ぶことができる。ポジショントラッキングが不要なスマホVRからの移植ソフトなら、ほぼ違和感なくプレイ可能だ。

Steam 外のソフト

Steam上のソフトだけでなく、SteamVR対応のフリーソフトなども問題なく動作した。ためしにMocuMocuDanceを起動させてみたところ、普通にHMDに表示される。

MocuMocuDanceはゲームコントローラー・キーボードによる移動が可能なため、表示された3Dモデルを頭上から見たり、地面下から見上げるなども可能だ。「GTCVRBK1」自体はポジショントラッキングに対応していないが、VRソフト上でゲームコントローラー、キーボードによって移動が可能なゲームであれば、VR空間内で制限なく鑑賞できる。

試しに1年以上前に自分で制作したVRソフトを起動させたところ、問題なく「GTCVRBK1」に表示された。既存のSteamVRソフトは特に意識することなくHMD内に表示される様である。

SteamVRコントローラー対応ソフト

SteamVRのなかでもフルコントローラーサポートのゲームであれば、「GTCVRBK1」でもプレイできる。PSVRから移植されたVRゲームソフトはゲームコントローラー前提のタイトルが多い。この手のゲームであれば、遊べる可能性が高い

SteamVRコントローラー 非対応ソフト

ゲームコントローラーに対応しないVRソフトはHMDに映像は映るが、それ以降の操作が不可能となり、進行できる事ができない。何らかの方法でモーションコントローラーをエミュレートする必要があるが、そのハードルはとても高い。

SteamVR その他のソフト

SteamVRのソフトでキーボード・マウス操作が可能なタイトルであれば問題なく動作する。また入力がモーションコントローラーのみでも、操作が不要なものは動作させる事ができる。「VRカノジョ」のベンチマークも操作方法は「見る方向」+「うなずく」で判定するため、完走させる事が出来た。本編もフルコントローラーサポートと表記されているので動作するのではないだろうか。

またモーションコントローラーが必須でないSteamVR対応の画像鑑賞ソフトや動画プレイヤーは大半は動作する。SteamVR対応ソフトであれば「GTCVRBK1」のHMDには映るので、何らかの手段で操作さえ行えれば良い。

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レンズ画質・見え方

非フレネルレンズという事で光の飽和やボヤけは少ない。1920×1080ドットという事もあり、解像度は低いがレンズ中央部分の解像感は悪くない。スマホVRと同クラス程度の品質と捉えて良いだろう。

問題は視野角とレンズ周辺部の見え方だ。視野角はスペックシート上では「100度」と表示されているが、パネルの端がハッキリ知覚できるほど狭く、普通に見ても左右の黒いフチが常に見える。数値的にはWindows MRと同様のはずだが、それより明確に視野角は狭い。

レンズ中央以外は「視野の歪み」が確認できて、周囲を見渡すような動作は気持ち悪い。逆歪み補正が適切ではないかと、いろいろ設定を見直してみたが解決しなかった。

またリフレッシュレートが60Hzしかないため、視野の移動に対しての追随性が低く酔いやすい。頭を動かすコンテンツでは長時間の利用は厳しそうだ。

トラッキング精度

「GTCVRBK1」はポジショントラッキングのない「3DoF」だ。PCVRとPSVRは「6DoF」対応で、多くのソフトが「6DoF」前提で設計されているため、「GTCVRBK1」はSteamVR対応と謳っているが、致命的に機能が足りてない事となる。

「3DoF」でもプレイに支障がないVRゲームソフトでも、視野と実際の頭の動きに差が発生するため、VR酔いが発生しやすい。友人や家族・パートナーに「GTCVRBK1」を用いて、体験プレイさせるのは避けたほうが良いだろう。(VR酔いで数時間、頭痛や吐き気に悩ませる可能性が高い)

各Steam VRゲームの動作検証

ここからは各Steam VRタイトルの挙動を見ていこう。Steam VR対応を謳う「GTCVRBK1」は実用的に使える機器なのだろうか。

The Lab

Steam VRの入門ソフトであるValveの「The Lab」。VRの驚きと楽しさを存分に体験できる良作だが、モーションコントローラーがない「GTCVRBK1」はタイトル画面から先に進む手段がないためプレイ不可能だった。

The Blu

スキューバーダイビングをVR体験できる「The Blu」。友人やパートナーにVRを楽しんでもらうVR接待に最適なソフトだが、こちらも「GTCVRBK1」がモーションコントローラーに対応に対応していないため、タイトル画面から先に進めずプレイ不可だ。

Sairento

VR空間を縦横無尽に飛び回り刀と銃で敵と戦うアクション・シューティングゲーム。このソフトも「GTCVRBK1」がモーションコントローラーに対応していないため、最初の設定画面から先に進む手段がなくプレイ不可能だ。

Project Cars

元が非VRゲームのため、ゲームコントローラーパットで遊べる「Project Cars」。そのため「GTCVRBK1」でもHMDを通してゲームプレイ可能だった。

ただし、ポジショントラッキングがないため、ハンドルや窓に顔を近づけても、空間自体が移動し、違和感は大きい。VIVEやOculus Rift、Windows MRでプレイした際に味わえる「車内に居るような仮想現実感」は全くなく、あくまで360度を見渡せるゲーム程度に留まる。VRレースゲームの醍醐味は大きくスポイルされてしまう様である。

また、3DoFと6DoFではカリングの判定が違うのか、デフォルト設定ではモデルのカリングが露呈する挙動となった。

Batman: Arkham VR

PSVRからの移植という事もあり、着座+ゲームパット前提となる「Batman: Arkham VR」も「GTCVRBK1」で問題なくプレイできる。このソフトに限らず、PSVRからの移植タイトルであれば「GTCVRBK1」で遊べる可能性は非常に高い。

GUNNACK

スマホVRからの移植となるGunJack。元々3DoF前提という事もあり、「GTCVRBK1」でも違和感なくプレイできる。ロケーションが宇宙空間で何もないという事もあり、周囲を見渡しても酔いにくい。このようなVIVEやOculus Rift前提ではないソフトであれば、普通に遊べる可能性は高い。

モーションコントローラー

さて、「GTCVRBK1」はStemVR対応だが、多くのソフトがHMDに映像は表示されるが、モーションコントローラーがないために操作を伴わない鑑賞系のソフトすら遊べない事が露呈してきた。しかし、ゲーム内の複雑な操作はできなくとも、タイトル画面の「メニュー選択」→「決定」操作さえ出来れば遊べるソフトの数が広がりそうである。

手持ちのWindows MRコントローラーをBluetooth経由で接続し、なんとか「GTCVRBK1」でコントローラーを非ポジショントラッキング状態で利用しようとしたが、WindowsMR版Steam VRと排他的に動作してしまい上手くいかない。

ベースステーション経由でVIVEコントローラーを利用しようと試みたが、現時点のStemVRの標準機能ではどうにもなりそうにないため、もう少し踏み込んで触ってみる必要がありそうだ。Leap MotionやPS MoveでVIVEコントローラーをエミュレートする方法もありうる。この辺は今後進展があれば当サイトに追記する事にする。

G-Tune GTCVRBK1 評価まとめ

VRというより360度HMDな「GTCVRBK1」

「GTCVRBK1」はポジショントラッキングとモーションコントローラーに対応していない事から、2018年に「PC-VR機器」と謳うには無理がある性能だ。安価な中国製のスマホやタブレットをヘッドヘッドマウントディスプレイ風に仕上げて、PCに接続できるようした「360度鑑賞可能なHMD」機器として見たほうがよいだろう。

他のPCVRと比較すると別カテゴリの製品

「GTCVRBK1」は一応Steam VRに対応しているが、htc VIVEやOculus RiftのVR体験との乖離は大きい。Steam VR機器として見た場合、htc VIVEやOculus Riftが90点~100点、Windows MRが50~60点程度とすると、「GTCVRBK1」は10~20点程度といった具合だ。

現在のPCVRを楽しむための最低限必要な機能を満たしていないため、「VRに興味がある」「最近流行りのVRを試してみたい」といった用途のカテゴリ商品ではないと見た方が良い。

価格相応の製品だが用途が明確であれば使える

「GTCVRBK1」は1万8千円という価格相応の性能を持った製品と見てよい。4万円程度で買える「Windows MR」の半分以下の価格だが、体験できるVRの範囲と質も半分以下だ。「VR」という機器に興味があるのなら、最低でも「Windows MR」機器程度まで予算を確保する事を強くオススメする。

ただし、用途を明確に絞り込めば「GTCVRBK1」でも十分使えるデジタル機器となる。

「かわいい3Dキャラクターが動く様子を様々な角度から眺めたい」「VR動画を鑑賞したい」という利用方法であれば、「GTCVRBK1」でもカバー可能だ。SteamVRに対応しているため、操作方法さえクリアーしていれば大抵のソフトは動作する可能性が高い。このアドバンテージはスマホVRやPSVRにはない強みだ。

PCに繋げる事ができるSteamVR対応HMDという強み

「GTCVRBK1」は「VRを体験したい」という目的で購入するとガッカリする機器ではある。htc VIVE,Oculus Rift、Windows MRとPCVR機器を触ってきた身としては、『この「GTCVRBK1」でVRを体験する人の数が増えると、VRにネガティブな印象を与えるのでは・・・』と危惧するレベルだ。

しかし、VR機器でなく、「PCに接続する事ができる格安HMD」という割り切りがあれば、1万8000円程度という価格を踏まえると悪くない。製品の特性を理解し、前述した様な特定の用途に価値を見出す事ができるのであれば、購入を検討しても良いのかもしれない。

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